インタビュイー:株式会社艶金 代表取締役社長 墨 勇志様
インタビュアー:岐阜信用金庫 大垣支店長  長坂 和昌

「安くて良い」の先にあるもの

長坂:SBT認定取得など、業界に先駆けて脱炭素経営に取り組まれています。どのような背景があったのでしょうか。

墨:実は最初から脱炭素経営が目的だったわけではありません。繊維業界は長年、海外生産への移転によって国内の仕事が減り続けてきました。当社もかなり厳しい時期がありました。そのような中で、アパレル物流の仕事を手掛けていた時期があったんです。海外で大量生産された洋服を大量に入荷し、売れ残れば大量廃棄の現実。中にはブランドタグを切り取って処分される商品もありました。また、2013年ラナ・プラザ崩落事故を通じて、人権問題が浮き彫りになり、フェアトレードについて考えさせられることもありました。安くて良い服を作ることだけを追求すると、その裏側で人権問題や環境問題が起きる可能性がある。そうした現実を見ながら、「この産業のあり方は本当に持続可能なのか。このままでは産業そのものが持続できないのではないか」と考えるようになったことが背景の原点にありました。

脱炭素はコスト。でも意味はある

長坂:多くの経営者は「脱炭素は利益につながるのか」という疑問を持っていますがいかがでしょうか。

墨:正直に言えばコストです(笑)。SBT認証取得にもお金がかかりますし、設備投資も必要です。受注につながらなければ意味はありません。だから、取引先から求められていない企業は、無理にやる必要はないと思っています。ただ、当社の場合は、環境への取り組みをホームページなどの媒体で発信したことで変化がありました。SBT認定取得やSDGsの取り組みを通じて、これまで出会うことがなかった企業とつながる機会が創出されました。

長坂:具体的にはどのような変化がありましたか

墨:既存の仕事をしているだけでは出会うことができない、アパレル業界以外の企業から声がかかるようになりました。サステナビリティ関連の会議や勉強会に参加すると、当社の環境への取り組みについて共感してもらえるベンチャー企業や新規事業に取り組む企業との接点ができます。実際にそうした出会いから、新しい案件につながったこともあります。アパレル業界の中だけで営業していても出会えない企業とつながれるのは大きいですね。最近は社会課題の解決を目指す企業との親和性が高く、接点も増えています。環境負荷の低減や資源循環、新素材の開発などに取り組む企業と一緒に新しい価値を生み出していく。そんな取り組みが少しずつ形になり始め、共創による社会課題解決企業として取り組んでいます。どこで誰とつながるか分からない。だから当社の取り組みを発信する意味があると思っています。

メイド・イン・ジャパンへのこだわり

長坂:ホームページでは「メイド・イン・ジャパンへのこだわり」を掲げています。
どのような想いが込められていますか。

墨:価格だけで考えれば海外生産の方が有利です。でも、「衣食住」に係るものを効率や価格だけで考えてしまうのは危険だと思っています。価格の裏には、使われている原料や、製作工程などの違いがあり、ちゃんと理由があるということです。日本には四季があり、文化があり、色彩があります。染色という仕事は単に色を付けるだけではなく、日本独自の感性や文化を表現する仕事でもあります。色の種類をみても、「赤」を「茜色」、「黄緑」を「若草色」と表現する日本人の奥ゆかしさを大切に残していきたいですね。洋服を買うときの色選びにも「楽しさ」を体験してもらいたいです。海外で安くて大量に作ることが当たり前になった時代だからこそ、日本でつくる意味や価値を残していかなければいけないと思っています。

地域とのつながりが未来をつくる

長坂:地元の高校との連携や地域活動にも力を入れておられます。

墨:活動を通じて採用につながればもちろんうれしいですが、それだけではありません。例えば、当社では、ワイン製造から出るぶどうの搾りかす、桜の木を剪定したあとの枝きれなど、普段なら捨てられてしまう、食べ物や植物を加工したあとに出る、「のこりもの」から染める「のこり染」という染色技術を開発しました。地元の高校生を対象にした、この「のこり染」のワークショップを行うと、高校生から「今までは捨てていたんですか」「こんな優しい色が出るのですか」といった声があがります。今の若い世代は、学校の授業でも環境やリサイクルについて学ぶ機会も増え、関心も高いですね。また、このような、当社の活動を見て入社を希望してくれる学生もいます。最近の入社動機は、会社の考え方や社会的な意義に共感してくれる人や、働きがいを重視する人が増えていると感じます。ホームページで環境への取り組みなどについて発信し続けていくことは、新たなお取引先を増やすだけでなく、採用面にも着実に効果があらわれてきていますね。地域の高校や学生との関りは、未来の人材育成だけでなく、日本の伝統であるものづくりの価値や地域産業の魅力を伝える機会にもなっています。

本業を残すために挑戦する

長坂:最後に今後の展望をお聞かせください

社長:脱炭素もSDGsもそれ自体が目的ではありません。当社の場合はこうした取り組みを続けてきたことで、これまで接点のなかった企業との出会いが生まれ、新しい価値を生み出す共創ビジネスに可能性を感じています。こうした活動を続けていると、将来どんな方向へ進むべきか、そのヒントに早くたどりつける気がします。もちろん、なにが正解かはまだ分かりません。でも、発信しなければ何も始まらないし、新しい出会いも生まれない。相手にする市場や商品は変わるかもしれませんが、培ってきた染色技術を活かしながら、次の時代の仕事を創っていきたいと思っています。

長坂:墨社長の「脱炭素への取り組みは、コストはかかるし、受注につながらなければ意味がない」と脱炭素経営を理想論として語らず現実を見据えながらも、「新たな取引先や共感する企業との出会いを生み出し、次の事業機会へとつなげてきた」と話される姿が印象的でした。これから脱酸素経営への取り組みを始める企業の背中を押したと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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